一瞬、何が起こったのか、瑶子には分からなかった。
家の中で、突然、背後から何かがぶつかってきた。
家具が落ちてきたのだろうか、と思った。
だが次の瞬間、誰かの手で口を塞がれていた。
人間だ。自分に襲いかかってきた誰かがいる。
(強盗?)
瑶子の総身を戦慄が走った。
身体はがっちりと背後から抱きすくめられ、圧倒的な力で封じ込められている。
「んーっ、んんーーっ!」
瑶子は必死で身をねじり、もがき、自由になろうとした。
だが、その都度、相手の力も強くなっていく。
やがて、首に、冷たい感触があった。金属のきらめきが、目に入った。
「…じっとしてろよ、殺すぞ」
耳元で、男の声が聞こえた。
気丈な瑶子もさすがに恐怖を覚えた。首筋に刃物を突きつけられている。
「むっ…んんっ…!」
口を塞がれたまま、瑶子は動きを止めた。
相手の息が荒い。緊張しているのか、ハァハァという息遣いが聞こえた。
「いいか、動くな、動くとマジで刺すぞ。じっとしてろ」
「……!」
非現実感が瑶子を襲う。犯罪に巻き込まれたのだ。
今、正午前のはず。裕が学校から帰ってくる夕方には、まだまだ時間がある。
つまり、助けが来る可能性は、ほとんどない。
男は瑶子を羽交い絞めにしたまま、瑶子を押すようにして廊下を進み始めた。
(何をするつもりなの?)
「歩け」
男の声に、聞き覚えがあるような気がした。
「…んんっ!…っ!」
瑶子は、寝室のベッドの上にうつ伏せに押し倒されていた。
男はまるでこの家の造作を知り尽くしているかのように、1階の廊下を進むと
瑶子の寝室の扉を開け、入り込んだのだった。
いま、男は瑶子の背中に馬乗りになると、タオルのようなもので瑶子に
猿轡を噛ませたあと、後ろ手に瑶子を拘束した。
手際の良さが、慣れた行為であることを感じさせた。
(違う!強盗じゃない)
瑶子は、侵入者の目的が別にあることに気づき始めた。
その手が、瑶子をうつ伏せに押し倒したまま、そのスカートを捲り上げ始めたのだ。
男は自分を、乱暴しようとしている。
「んむっ!んーーーーーーっ!」
一度は収まっていた瑶子の抵抗が、再び激しくなった。
なりふり構わず腰を振り、上半身をベッドの上でバウンドさせ、男を
振り落とそうと試みる。
だが、ガシッと頭を鷲づかみにされた。そのままベッドに押し付けられる。
「むんっ!うーー…っ!」
柔らかいベッドの上とは言え、頭を強い腕力で掴まれた上、強烈に圧し付けられて
瑶子は苦痛のうめきを零した。またその動きが鈍る。
「…じっとしてろってんだろ」
上から冷たい声が聞こえた。
ググ…と頭を押し潰す指に力が加わる。
ここまでの乱暴を加えられた経験は、瑶子にはなかった。
「気持ちよくしてやろうってんだから、大人しくしてろ」
男は言った。もうその目的は明らかだった。
ふたたび男は、瑶子のスカートに片手を掛け、ぐいぐいと捲り上げていく。
やがて、瑶子の下半身は露出させられた。
肌色のストッキングと、清楚な白のショーツ。豊満な尻。
ひんやりとした空気と、暴漢の舐めるような視線をそこに感じた。
ビリリッ…とナイロンのストッキングが乱暴に引き裂かれた。
瑶子は猿轡を噛まされたまま、悲痛な叫びを迸らせた。
佐伯家の夫婦の寝室に、男女の荒い息が響いている。
逃れようとする女と、捕らえ犯そうとする男の必死の格闘が数分間、続いていた。
だが、その争いも、体力で上回る男の優勢がじょじょに明らかになりつつある。
いまや、男は瑶子の抵抗を楽しむような素振りすら見せ始めた。
瑶子に渾身の力を振り絞るだけ振り絞らせてから、圧倒的な腕力で抑えつける。
そのたびに、瑶子の喉から屈辱の声が漏れる。
まさに猫が鼠をいたぶるような構図になりつつあった。
男が力を緩めた時、瑶子はようやく必死で振り向き、男の顔を見た。
男の顔は目深に被った黒のスキー帽と口元の大きなマスクで覆われていた。
だが、ぞっとするような鋭く冷たい目が、瑶子を見下ろしていた。
その目には、見覚えがあった。
(…松浦くん!)
瑶子の目は衝撃で大きく見開かれた。
確証はない。だが間違いない。この暗く陰惨な目を、忘れようがない。
しかし、まさか、裕の同級生が。いくら札付きの不良とは言え、高校生が。
「んっ、んんーーーーーっ!」
瑶子は激しい格闘に汗ばみ始めた身体の力を振り絞り、男を振り落とそうとした。
次の瞬間、目の前に真っ赤な火花が散った。
(…な…に?)
頬を打たれたのだ、と気付くまでに数秒かかった。
脳震盪のように、視界がくらくら、と揺れた。
「もう、観念しろって」
男の声がした。
猿轡をされた瑶子の鼻腔から、荒い空気が最後の力と共に、漏れていく。
(…裕ちゃん…裕ちゃん、助けて…)
瑶子は愛する息子に救いを求めた。
その頬を、恐怖と悔しさを含んだ涙が伝っていく。
「…観念したかよ?え?」
裕のではなく、笑いを含んだ凌辱者の、勝ち誇った声が頭上から落ちてきた。
そして、瑶子は、大柄で逞しい身体が、オスの匂いを発散させて、
のしかかってくるのを感じた。
家の中で、突然、背後から何かがぶつかってきた。
家具が落ちてきたのだろうか、と思った。
だが次の瞬間、誰かの手で口を塞がれていた。
人間だ。自分に襲いかかってきた誰かがいる。
(強盗?)
瑶子の総身を戦慄が走った。
身体はがっちりと背後から抱きすくめられ、圧倒的な力で封じ込められている。
「んーっ、んんーーっ!」
瑶子は必死で身をねじり、もがき、自由になろうとした。
だが、その都度、相手の力も強くなっていく。
やがて、首に、冷たい感触があった。金属のきらめきが、目に入った。
「…じっとしてろよ、殺すぞ」
耳元で、男の声が聞こえた。
気丈な瑶子もさすがに恐怖を覚えた。首筋に刃物を突きつけられている。
「むっ…んんっ…!」
口を塞がれたまま、瑶子は動きを止めた。
相手の息が荒い。緊張しているのか、ハァハァという息遣いが聞こえた。
「いいか、動くな、動くとマジで刺すぞ。じっとしてろ」
「……!」
非現実感が瑶子を襲う。犯罪に巻き込まれたのだ。
今、正午前のはず。裕が学校から帰ってくる夕方には、まだまだ時間がある。
つまり、助けが来る可能性は、ほとんどない。
男は瑶子を羽交い絞めにしたまま、瑶子を押すようにして廊下を進み始めた。
(何をするつもりなの?)
「歩け」
男の声に、聞き覚えがあるような気がした。
「…んんっ!…っ!」
瑶子は、寝室のベッドの上にうつ伏せに押し倒されていた。
男はまるでこの家の造作を知り尽くしているかのように、1階の廊下を進むと
瑶子の寝室の扉を開け、入り込んだのだった。
いま、男は瑶子の背中に馬乗りになると、タオルのようなもので瑶子に
猿轡を噛ませたあと、後ろ手に瑶子を拘束した。
手際の良さが、慣れた行為であることを感じさせた。
(違う!強盗じゃない)
瑶子は、侵入者の目的が別にあることに気づき始めた。
その手が、瑶子をうつ伏せに押し倒したまま、そのスカートを捲り上げ始めたのだ。
男は自分を、乱暴しようとしている。
「んむっ!んーーーーーーっ!」
一度は収まっていた瑶子の抵抗が、再び激しくなった。
なりふり構わず腰を振り、上半身をベッドの上でバウンドさせ、男を
振り落とそうと試みる。
だが、ガシッと頭を鷲づかみにされた。そのままベッドに押し付けられる。
「むんっ!うーー…っ!」
柔らかいベッドの上とは言え、頭を強い腕力で掴まれた上、強烈に圧し付けられて
瑶子は苦痛のうめきを零した。またその動きが鈍る。
「…じっとしてろってんだろ」
上から冷たい声が聞こえた。
ググ…と頭を押し潰す指に力が加わる。
ここまでの乱暴を加えられた経験は、瑶子にはなかった。
「気持ちよくしてやろうってんだから、大人しくしてろ」
男は言った。もうその目的は明らかだった。
ふたたび男は、瑶子のスカートに片手を掛け、ぐいぐいと捲り上げていく。
やがて、瑶子の下半身は露出させられた。
肌色のストッキングと、清楚な白のショーツ。豊満な尻。
ひんやりとした空気と、暴漢の舐めるような視線をそこに感じた。
ビリリッ…とナイロンのストッキングが乱暴に引き裂かれた。
瑶子は猿轡を噛まされたまま、悲痛な叫びを迸らせた。
佐伯家の夫婦の寝室に、男女の荒い息が響いている。
逃れようとする女と、捕らえ犯そうとする男の必死の格闘が数分間、続いていた。
だが、その争いも、体力で上回る男の優勢がじょじょに明らかになりつつある。
いまや、男は瑶子の抵抗を楽しむような素振りすら見せ始めた。
瑶子に渾身の力を振り絞るだけ振り絞らせてから、圧倒的な腕力で抑えつける。
そのたびに、瑶子の喉から屈辱の声が漏れる。
まさに猫が鼠をいたぶるような構図になりつつあった。
男が力を緩めた時、瑶子はようやく必死で振り向き、男の顔を見た。
男の顔は目深に被った黒のスキー帽と口元の大きなマスクで覆われていた。
だが、ぞっとするような鋭く冷たい目が、瑶子を見下ろしていた。
その目には、見覚えがあった。
(…松浦くん!)
瑶子の目は衝撃で大きく見開かれた。
確証はない。だが間違いない。この暗く陰惨な目を、忘れようがない。
しかし、まさか、裕の同級生が。いくら札付きの不良とは言え、高校生が。
「んっ、んんーーーーーっ!」
瑶子は激しい格闘に汗ばみ始めた身体の力を振り絞り、男を振り落とそうとした。
次の瞬間、目の前に真っ赤な火花が散った。
(…な…に?)
頬を打たれたのだ、と気付くまでに数秒かかった。
脳震盪のように、視界がくらくら、と揺れた。
「もう、観念しろって」
男の声がした。
猿轡をされた瑶子の鼻腔から、荒い空気が最後の力と共に、漏れていく。
(…裕ちゃん…裕ちゃん、助けて…)
瑶子は愛する息子に救いを求めた。
その頬を、恐怖と悔しさを含んだ涙が伝っていく。
「…観念したかよ?え?」
裕のではなく、笑いを含んだ凌辱者の、勝ち誇った声が頭上から落ちてきた。
そして、瑶子は、大柄で逞しい身体が、オスの匂いを発散させて、
のしかかってくるのを感じた。